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法改正 2026/06/20

同一労働同一賃金ガイドライン改正に伴う「待遇格差の見直し」と、 企業が今すぐ着手すべき実務対応

 厚生労働省より、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(同一労働同一賃金ガイドライン)」の改正が発表されました。適用は令和8(2026)年10月1日となります。
 これまでの同一労働同一賃金への対応は、基本給や各種手当の表層的な整理に留まる企業が少なくありませんでした。しかし、今回の改正は、企業が「正社員と非正規社員(パート・有期契約・派遣)」の間で慣習的に設けていた待遇差のグレーゾーンについて、より厳格な見直しを求めるものです。今後、客観的な説明がつかない格差を放置することは、労基署による指導リスクだけでなく、従業員からの納得度の低下や離職、ひいては法的トラブルのリスクに直結するため、早期の体制整備が推奨されます。何が変わるのか、具体的に見ていきたいと思います。

1.新ガイドラインで明確化された「3つの重要変更点」と根拠となる判例

①「退職手当(退職金)」項目の新設(最重要項目)

 今回、指針内に「退職手当」の項目が新たに設けられました。退職金が持つ「功労報償」や「生活保障」「労務の後払い」といった性質が、その会社に長年貢献している有期契約社員やパートタイマーにも当てはまる場合、「一律に対象外とする」運用は不合理(不適法)と判断される可能性が高くなります。不支給とする場合は、それに見合うだけの基本給の設定など、客観的にバランスが取れていることの証明が必要となります。

enlightened【変更点①の根拠判例】 メトロコマース事件(最高裁第一小法廷判決)
駅売店で働く有期契約社員への退職金不支給が争われた裁判。当時は事案の性質上不支給が認められましたが、最高裁は「退職金の目的(功労報償や後払い等)によっては、非正規への不支給が違法になる場合もある」との含みを残しました。国はこの最高裁の指摘を完全に明文化し、基準を明確にするために、今回の改正で「退職手当項目」を新設しました。
② 主観的・抽象的な理由(「将来への期待」等)の排除

 これまで格差の理由として多用されてきた「正社員は将来の幹部候補だから」「役割期待が異なるから」といった企業側の主観的な弁明について、改正ガイドラインは「説明として不十分である」と明記しました。今後は、現在の職務内容、転勤の実態、配置変更の範囲など、あくまで「客観的事実」に基づいてのみ、格差の正当性を主張できます。

enlightened【変更点②の根拠判例】 日本郵便事件(最高裁第一小法廷判決)
契約社員への各種手当・休暇の格差が争われた裁判。最高裁は、会社側の「将来の役割への期待が違う」という主観的・抽象的な理由を退け、手当ごとの「支給目的」に照らして一律不支給を違法と判示しました。この判決の考え方が、新指針の「客観的説明義務」のベースとなっています。


③ 諸手当・休暇制度の厳格な「実態主義」
 就業規則上の文言ではなく、職場の「運用の実態」が厳しく見られます。例えば、「正社員には転勤の可能性があるから住宅手当を支給する」と規程に書いてあっても、実際には何年も正社員の転勤命令が出されていない場合、非正規社員への住宅手当不支給は不合理とみなされます。

enlightened【変更点③の根拠判例】 ハマキョウレックス事件(最高裁第二小法廷判決)
契約社員への手当格差が争われた裁判。住宅手当について最高裁は、「就業規則に転勤の可能性が謳われていても、実態としてその正社員に転勤が全く命じられていないのであれば、転勤のない契約社員に住宅手当を支給しないことは不合理である」と判示。形式的な規程ではなく「現場の実態」がすべてであるという基準を確立しました。

2.【緊急動向】最高裁で高裁判決が確定:「無期雇用(フルタイム)」の格差是正へ

 多くの企業が「同一労働同一賃金は、パートや有期契約社員(有期雇用)を守るためのもの」と誤解しています。しかし、令和8年4月(同年6月報道)、最高裁判所は経営陣が看過できない極めて重要な判断を下しました。

・事件の概要(場外馬券売り場事件): 雇用期限のない「無期雇用」かつ「フルタイム(週5日)」で正社員と全く同じように働いていた従業員(身分は嘱託・契約社員)が、正社員との間にあった基本給・ボーナス・各種手当の格差を不服として提訴。

裁判所の判断: 裁判所(仙台高裁および最高裁)は、「法律上、無期雇用の労働者間の格差を直接禁じる明文規定はない」という会社側の反論を退け、「すでに社会において『同一労働同一賃金』の公序(守るべきルール)は確立している」と断言。無期雇用間であっても、家族手当・住宅手当・ボーナスの不合理な格差を違法(賠償命令)と認め、判決が確定しました。

【実務上の留意点】 「当社の契約社員は『無期転換(5年ルール)』を経た無期雇用だからガイドライン対象外だ」「定年後の嘱託だから手当がなくて当然だ」という従来の枠組みは、今後は見直しが必要となる可能性が極めて高いと言えます。

3.特に注視すべき「諸手当・福利厚生」の追加要件

 今回の改正および近年の判決傾向を踏まえ、以下の手当や制度について具体的に非正規社員への適用・均衡を考慮するよう基準が再整理されています。
対象手当・制度 改正後の実務判断基準
家族手当・扶養手当 契約更新を重ね、今後も相応の期間、継続勤務が見込まれる非正規社員(無期フルタイム含む)に対しては、正社員と同一の支給(またはバランスを考慮した支給)を行うことが求められます。
住宅手当 転勤の実態がないにもかかわらず、正社員のみに支給することは不合理とされる可能性。勤務地や住居の状況が同じであれば、同一の支給、または合理的なバランスが必要です。
病気休職中の給与保障 正社員に病気欠勤時の給与保障がある場合、一定期間以上勤務している非正規社員にも、同様に安心を保障する措置(または相応の支給)を考慮する必要があります。
無事故手当・永年勤続褒賞 同じ職務(運転等)を行っている、あるいは同じ期間会社に貢献している場合、雇用形態のみを理由とした不支給や差別は認められにくい傾向にあります。

4.経営陣・人事責任者が今すぐ着手すべきアクションプラン

  • 【ステップ1:現状監査(2026年7月まで)】
    自社の全手当(家族・住宅・退職金・休職制度含む)を洗い出し、「正社員と非正規・無期フルタイム社員との格差」および「正社員の転勤等の運用の実態」を客観的に棚卸しする。
  • 【ステップ2:職務・説明ロジックの構築(2026年9月まで)】
    非正規社員から待遇差の理由を問われた際、現場の管理職や人事が「客観的な事実」ベースで論理的に説明できる賃金・評価のガイドラインを社内で統一する。
  • 注意:正社員の待遇引き下げは慎重に】
    原資不足を理由に「正社員の待遇を下げて格差を縮小する」手法は、労働条件の不利益変更にあたり新たな労使トラブルを招く恐れがあります。原則として「非正規社員の底上げ(人件費の適正な投資)」を軸にした予算編成・経営計画の見直しを検討してください。
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