皆さんは固定時間外手当をご存知でしょうか?
最近、労働問題の中で「残業代」というのが1つの大きなキーワードとなっています。特に、労働者と使用者が「未払残業代」の請求であらそうことも少なくありません。
今回は、そんな残業代の中でも「固定時間外手当」に焦点をあててその支給方法や注意点を説明いたします。
固定時間外手当とは、毎月一定の残業代を固定的賃金として労働者に支払う手当のことを指します。例えば、15時間分の固定時間外手当を払うことで、月の残業時間が15時間に満たない場合には追加で残業代を支払う必要がなく、15時間以上の残業をした場合でも、15時間を超えた時間についての残業代のみを支払えば足りるようになります。
ただし、もし月の残業時間が決めた時間に満たなくても、使用者は固定時間外手当を減額することはできません。つまり、15時間分の固定時間外手当を支払っているときには、たとえ月の残業時間が15時間に満たない場合であっても、15時間分の固定時間外手当はそのまま支払う必要があります。
この固定時間外手当制度を利用すると、
- 求人等に賃金を載せる場合に、「固定的賃金」として記載することができるため、総支給額を増やすことができる。(ただし、〇〇時間分の固定時間外手当として手当を支給する旨を別途記載する必要があります。)
- 一定時間までは追加で残業代を支払う必要がないため、給与計算の煩雑さをある程度解消できる。
- 労働者にとっては、残業時間を減らせば減らすほど得をするシステムのため、業務を効率化して労働時間を減らすきっかけになる。
等といったメリットがあります。
固定時間外手当を計算するには、先に基本給や各種手当といった残業代の基礎となる賃金の金額を決め、そこから決めた時間分の残業代を計算して足す方法が簡単です。しかし、支払う賃金の総額を決定し、その金額を基本給部分と固定時間外手当部分に振り分ける方法も存在します。
今回は、以下の条件で働いている労働者を例に、総支給額から固定時間外手当を振り分ける計算方法をご紹介します。
(例)月所定労働時間が160時間の労働者で、総支給額を210,000円とし、40時間分の固定時間外手当を支払う場合
残業代の単価は、以下の計算式により算出します。
残業代の基礎となる賃金総額(基本給部分)÷月所定労働時間×割増率(1.25) |
そのため、今回の場合では160時間分の基本給部分の賃金と、40時間分の賃金に割増率1.25を掛けた賃金を支払う必要があります。固定時間外分として40時間×1.25で算出される賃金額は、50時間分の賃金額と同額となります。つまり、基本給部分の160時間と固定時間外分の50時間を合計した210時間から時間単価を求めることになります。
今回の場合、総支給額は210,000円のため、210,000円÷210時間=1,000円が時間単価、1,000円×1.25=1,250円が残業代の単価となります。
※このときに、時間単価が最低賃金を割らないように注意してください。
結果、1,000円×160時間=160,000円が基本給部分の賃金、1,250円×40時間=50,000円が固定時間外手当と振り分けられます。
固定時間外手当の制度が有効になるためには、2つの基準があります。それが明確区分性と対価要件です。
明確区分性とは、賃金のうち基本給部分と固定時間外手当が明確に分けられている状態を指します。口約束で「この賃金には残業代が含まれているから」と説明しても争いとなった際には無効と判断されてしまうため、労働契約書等に賃金を記載する際、「〇〇手当を〇〇時間分の固定時間外手当として支給します」ということが分かるように記載しなければなりません。また、給与明細書や賃金台帳でも、基本給と合算した金額を記載するのではなく、固定時間外手当は基本給とは分離させて記載をするのが望ましいです。
対価要件とは、固定時間外手当の時間を超えた部分の残業代を正確に支払っていることを指します。固定時間外手当を支払っているから追加の残業代を支払わなくてよいというのは大きな間違いで、超えた部分については別途残業代を支払う必要があります。そのため、労働者の就業時間の管理を適切に行い、残業時間を把握することが大切です。
先日、長時間の固定時間外手当を設定していたことが違法だと判断された判決が出ました。その会社は80時間分の固定時間外手当を支給しており、労働者が未払残業代の請求を行いました。前述した明確区分性と対価要件の要件和満たしていましたが、判決では、「そのような長時間の労働を想定している固定時間外手当は無効だ」として、固定時間外手当として支払っていた金額をすべて基本給に含めて残業代を計算し、支払うこととされました。結果として、数百万円の未払い残業代の支払いが命じられています。
そのため、長時間の固定時間外手当を設定することは争いになったときにリスクが大きいのが現状です。
月の残業時間の上限が45時間のため、45時間を超える固定時間外手当は設定しないようにしましょう。 |
固定時間外手当は注意しなければならない点もありますが、うまく活用することでメリットもある制度です。ご不明な点がございましたら、弊所までお気軽にご相談ください。